スイス旅行中に乗った氷河特急。けれど、実は終点のツェルマットまで行けなかったんです……。その時のドタバタについては、また別の記事で詳しく書くとして、今回は「ようやくたどり着いたツェルマット」での、夢のような1日をご紹介します。
ゴルナーグラート鉄道で、雲の上の展望台へ
ツェルマットに着いた日、私たちはゴルナーグラート鉄道に乗って、標高3,000メートルを超える展望台を目指しました。可愛らしい赤い車体の電車は、歯車でガタンガタンと山を登っていきます。
車窓から見える景色は、ゆっくりと表情を変えていきます。はじめは針葉樹の林の中を進んでいたかと思えば、次第に木々がまばらになり、やがて姿を消します。標高が上がるにつれて気温が下がり、強風や雪にさらされるこの場所では、植物が育つのにも時間がかかるそう。だからこそ、ゆっくりゆっくりと年輪を重ねる木々には、どこかたくましさと美しさが感じられました。
ふと窓の外に目をやると、先ほどまで右側に見えていたマッターホルンが、今度は背後へと移動しているように見えます。鉄道がぐるりとカーブしながら山を登っていくため、車内からの眺めもめまぐるしく変わるのです。そのたびに「今度はあっちに見える!」と窓の向こうをのぞき込むのが楽しくて、何度も席を立ってしまいました。
森林限界を越えると、視界はいっきに開け、広がるのはまさに“アルプス”の世界。澄んだ空気の中、白銀の山々がくっきりと浮かび上がっていました。
マッターホルンを望むゴルナーグラート展望台
終点のゴルナーグラート駅に到着し、展望台に立つと、目の前にマッターホルン!そしてモンテローザや氷河たち。見渡すかぎり、雪をいただいた山々が連なっています。
山岳ガイドさんが、ひとつひとつの山の名前や標高を丁寧に教えてくれました。「あちらがモンテローザ。標高4,634メートルで、スイスでいちばん高い山……と言われることもありますが、実は国境にかかっているので判断が難しいんです」とのこと。スイス国内に全体がすっぽり収まっている山でいちばん高いのは、ドームという山で4,545メートルだそうです。
また、モンテローザの名前は「バラの山」という意味を持ち、夕日に赤く染まる姿がその由来だと教えてもらいました。その美しい情景を想像して、夕方にも訪れてみたくなりました。
富士山よりもはるかに高い山が、こんなにたくさん連なっている――その事実に、改めて「ここはアルプスの国、スイスなんだな」と実感しました。氷河もいくつもあり、それぞれに名前があると聞いて、遠くに伸びる白い筋がどれも生きているように見えてくるのが不思議でした。
風は冷たく、空気は薄いけれど、それすらもこの特別な風景の一部。雄大な自然の中で、ただ静かに山々を眺める時間は、まるで時間が止まったようでした。
リッフェルゼーで見た逆さマッターホルンと自然散策
ゴルナーグラート展望台で壮大な山々を堪能した後は、1駅下のローテンボーデン駅まで電車で戻り、そこから徒歩でリッフェルゼー湖を目指すハイキングに出発しました。基本的になだらかな下りで、約2.7キロメートル、初心者でも無理なく歩ける1時間ほどのコースです。
リッフェルゼーは、湖面に映る「逆さマッターホルン」で知られる絶景スポット。お天気がやや曇りがちで、マッターホルンには薄く雲がかかっていたため、「きれいに見えるかな?」と少し心配になりました。
実際には、完全にくっきりとした逆さマッターホルンではありませんでしたが、それでも湖に映る雄大な山の姿を確認できた瞬間は、何度見ても感動的でした。湖の静けさと澄んだ空気がその景色をいっそう引き立てていました。
ハイキングの途中、ガイドさんからは周囲の草花の名前や特徴、アルプスマーモットの生態についての説明がありました。マーモットはとても警戒心が強いので、大きな声を出さず静かに歩くことが大切だそうです。
その後、ガイドさんが一生懸命探してくれたおかげで、遠くの岩陰にひょっこりと顔を出したマーモットを見つけることができました。ちょこちょこと動き回るその姿はとてもかわいらしく、自然の息吹を感じる貴重な時間となりました。
朝焼けのマッターホルン
ツェルマットでは1泊だけ。せっかくなので、朝焼けのマッターホルンを見たくて、まだ暗いうちに起きて外へ出てみました。
町はひっそりとしていて、聞こえるのは足音と鳥の声くらい。10分ほど歩いて、マッターホルンがよく見える場所へ向かいます。すでに何人かの“早起き組”が静かにスタンバイしていました。
空がだんだん明るくなり、マッターホルンの輪郭が浮かび上がってきます。山肌がピンクに染まり、少しずつオレンジ色に変わっていく——その変化はゆっくりだけど、気づくとあっという間です。
ほんの10分ほどのこと。でもその短い時間だけ、マッターホルンは特別な表情を見せてくれます。それを過ぎると、いつもの静かな山の景色に戻っていきました。
ちなみに、朝焼けを見に行くなら日の出時間のチェックは必須。ツェルマットは山に囲まれているので、実際に陽が差し込むのはやや遅めですが、それでも見逃したくない一瞬です。
よく知られているのは「日本人橋」と呼ばれるスポットで、日本人観光客も多く集まります。ただ、私が訪れたときは橋の近くに工事用のクレーンがあり、少し離れた別の橋から静かに眺めました。
いくつかビュースポットがあるので、静かに見たい方は早めに出て、少し歩いてみるのもおすすめです。
終わりに
氷河特急のトラブルで一時はどうなることかと思ったけれど、それでもやっぱり、ツェルマットは“来てよかった”と思わせてくれる特別な場所でした。
展望台からの雄大な景色、湖に映る逆さマッターホルン、そして早朝の静けさの中で見上げた山のシルエット。
きっと、またいつか、季節を変えて訪れてみたい。そう思いながら、私は次の目的地、フランスのシャモニーへと向かいます。
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